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2011年3月30日 (水)

大災害と一打逆転

読書ノート

2002年に出版された石黒耀著『死都日本』という本をご存じだろうか。

九州では、有史以前から、一回で西日本を破壊し尽すような巨大な「破局()噴火」が何回も繰り返されていて、現代にそれが勃発するという想定の小説で、著者は火山好きのお医者さんで、専門家も高く評価するような内容になっている。

 今年126日に霧島火山の新燃岳が噴火したとき、まさか破局的噴火にはならないだろうと思いつつ、読み直してみた。あらためて驚いたのは、政治的設定が、長期保守政権が選挙で敗れ新政権が生まれたあとで、首相の名前まで「菅原」という、現在の状態との合致だった。

菅原首相は、ある火山学者の文を読んで、破局噴火が切迫していることを確信し、秘密裏に日本を破局から救うための国家プロジェクトを推進する。予測どおり霧島火山の噴火が始まり、大都市も火砕流、火災サージで壊滅する。ちなみに火砕流に襲われる川内原発はその時点でいち早く廃炉にされていた。

今回、火山と地震・津波、火と水という違いはあるが、もとは日本列島の地殻変動という意味では一緒であり、警世の書として書かれた本書は、まさしく「予言の書」となってしまった。しかしこの小説が出色なのは、たんに破局を描くだけではなく、「希望」を描いているところだろう。

改めて身にしみて感じさせられたが、日本は災害列島、震災列島である。一方でその自然は普段は豊かな恵みを私たちにもたらしてくれている。小松左京『日本沈没』は列島からから世界へ離散する話だが、この小説は、私たちがこの災害列島、震災列島で生き続けるという決意表明となっている。

小説では、全土が降灰と土石流に覆われていき、さらに南海地震、富士山噴火が襲おうという間際に、巧妙な為替オペレーションの発動で円の崩壊を防ぎ、再生プランが世界に向けて発信される。まったく新しい社会を建設するという決意を世界に向けて宣言することで、破局から一変して、今後の国際社会のイニシアティブをとる。そんなにうまくいくかという感じもするが、この逆転の展開はみごとだ。

再生計画とは、詳しくは同書を買って読んでいただきたいが、沖積平野から丘陵地へ都市機能や住宅を撤退させる。川の構築物は再建せず、自然へ戻す。原発、化石燃料から分散型自然エネルギーへの転換、植生のすみやかな回復、等々。自然に逆らわないエコロジカルな社会だ。

私たちは物質的には豊かだが、危険で汚染に満ちた社会を築いてきあげく、精神的にも閉塞的になってしまった。破局的な津波がいくつもの市街を廃墟にしたとはいえ、この小説ほど過酷ではない。むしろ原発という人災の側面が大きくなりつつある。小説のようなリーダーシップはいまの日本に望むべくもないが、私たちの力を合わせて、災害列島上の今の社会を、よりぜい弱性の少ない形へと組み替えていく契機にしたいと思う。

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