« 医療学習ノート 『患者よ がんと戦うな』 | トップページ | 経済学習ノート 外国人が日本国債を買っても対外純負債は増えない »

2012年2月16日 (木)

医療学習ノート 『9割の病気は自分で治せる』

岡本裕『9割の病気は自分で治せる あなたも私もおいしい患者?』中経の文庫、2009年1月

医療に対する個人としての対応と、医療の社会的問題の解決策と両者が展望できる。なかなか示唆に富んだ本だ。社会資本共通資本としての医療の無駄遣いをなくし、本来必要なところに集中する。「患者」としても、自己治癒力を高めて、医療から解放された方がいい。

病気には3つのカテゴリーがある。
・カテゴリー1 医者がかかわってもかかわらなくても治癒する病気
・カテゴリー2 医者がかかわることによってはじめて治癒にいたる病気。言い換えると、医者がいないと治癒に至らない病気
・カテゴリー3 医者がかかわってもかかわらなくても治癒に至らない病気
日常で診療する疾病のうち、カテゴリー1が少なくとも70%以上、多ければ90%以上(これが本の題名の由来)。著者の体験では95%以上もいて、カテゴリー2の患者が追いやられている。

カテゴリー1=喜劇の病気
感冒(風邪)、高血圧、高脂血症、糖尿病、肥満症、痛風、心身症、便秘症、頭痛、腰痛症、不眠症、うつ、肩こり、ぜん息、アトピー、自律神経失調症 総称して「喜劇の病気」悲劇のヒロインの病気には絶対になりえない。
「おいしい患者」。医者がいなくても治る人は治っていた患者。手間はかからず、薬を飲み続け、診療にも繰り返し来てくれる。
ずっと医者にかかり続けなくても治る、あるいは医者にかかる必要もない、そんなカテゴリー1の方が、数多く病院に押しかけ、おいしい患者になっている。
喜劇の病気は、原則として自らの力で治すことができるし、医者の力が必要な場合でも、ほんのわずかなアドバイスで事足りる。
おいしい患者は少なくとも3000万人、あるいは4,5千万人に上るかもしれない。
慢性疾患。黙って薬を飲み続け、検査を受け続けてくれる。確実に儲けが見込める。 「命にかかわらない」かつ「完治しない」
これが増えすぎて、本来医者が相手にすべきカテゴリー2の患者がわきに追いやられている。
患者が自ら強くなって意味のない通院をやめることは、長期的に見れば、薬と検査漬けのマニュアル化された医療の現状を是正することになる。

日本の医療の現状
勤務医が1日に外来で診る患者数は50~60人。米国の5倍。
日本の医者一人が年間に診察する患者数は8500人。OECD平均は2421人。日本はその3.5倍。外来患者一人当たり診察料、日本は7000円、米国は62000円、スウェーデン89000円。
日本の医者は多忙、薄利多売。薄利多売なので多くの患者を診るしかない。
技術料が低い。薬価で補うため、日本が世界で一番の薬消費国に。
医者はやりがいを失い、割り切るようになる。
今のシステムでは、カテゴリー1の患者をどれだけ確保できるかが医療機関の経営安定の最優先事項。
メタボは、「おいしい患者」を創る仕組み。

カテゴリー2の疾患こそ、医者の本領を発揮できる領域。
しかし、医者にかからなくていい人をかからなくていいと断定することも大切な仕事。トリアージ=振り分ける

命にかかわる患者と向き合うことは、精神的な負担も大きく、時間も費やし、手間もかかり、金銭的に報われない。
医者が「命を救う仕事」を避けるようになる。
脳神経外科、外科、小児科がなり手が少なく、形成外科、皮膚科、麻酔科を希望
仕事がきつく、しかも生命に直接かかわる診療科への希望が減っている。
報われなければラクな方を選ぶ。
産婦人科、小児科 緊急業務も多く、訴訟リスクもひじょうに高い。過労死、医療裁判
勤務医で疲れ果て、やめて内科などで開業するようになる。
皮膚科、形成外科、精神科は、緊急性もなく、比較的自由に時間を使うことができる。
命にかかわる疾患と向き合う医者が、もう少し快適に、第一線に長くいられるような環境を整えなければいけない。 

カテゴリー2の病気 
医者がかかわらなければ治癒に至らない。自己治癒力を高める術を十分熟知していて、なおかつ自分でおこなうことが可能な状態がカテゴリー1。知識の有無にかかわらず、自身でなかなか対処できないものがカテゴリー2。
緊急措置が必要なもの、特殊な技能を要するもの、そして広範囲な知識を要するもの、さらに総合的な知識が必要なもの。医者という専門家の介在がどうしても必要な疾患(病態)。
災害外傷、脳出血、脳梗塞、くも膜下出血、狭心症、心筋梗塞、大動脈瘤、伝染病、急性薬物中毒、がん。
医者と患者が密にコミュニーションを取りながら、信頼関係を築き、患者に個々に合った治療方法を探りながら、治癒を目指していく必要がある。

カテゴリー3の病気
がんの一部、神経変性疾患、神経機能障害など
治癒が不可能な疾患を、治癒を可能にするというのも医者冥利に尽きる。
基礎医学は、カテゴリー3の患者をカテゴリー2に引き戻す重要な分野。もっとも莫大な資金とエネルギーを投資するに値する。成り手が少ない。

今のシステムのままの医療費削減は誤り
医療費のGDPに占める割合比較では、今の日本は、他の先進国と比較して医療費の対GDP比は低い。医者の数が少ない。医療費も低く抑えられている。
しかも医療技術の進歩で、いままでやらなかった検査や治療をどんどんやるようになり、医療費が高騰する。
並行して患者が作為的にどんどん作られる。

「おいしい患者」の弊害
・ほんらい医者にかかってもかからなくても治りうる人たちだから、医療費を使った分だけ無駄遣いをしたことになる。そのような患者が診療時間の多くを占めて、本来治してあげなければいけない患者たちの治癒を妨げている。
・医者の多くをやりがい派から割り切り派へと変えてしまう。

「喜劇の病気」は自己治癒力に任せればいい。 喜劇の病気に対して医療費が無駄遣いされているために、本当に必要な医療費がひっ迫している。社会共通資本の無駄遣い。

カテゴリー2をカテゴリー1に、カテゴリー3をカテゴリー2に、ひいてはカテゴリー1にしたい。それにはお金、時間、手間が必要。がんの3大治療は単なる時間稼ぎの手段。患者の自己治癒力を高めるためには個人個人に即した細やかなさじ加減が必要。本当に治さなければいけない疾患を対象にした研究も効率化とは対極にある。
「おいしい患者」がいなくなれば、薄利多売の悪しきシステムも変わらざるをえなくなる。
「おいしい患者」がいなくなれば、現在の医療費33兆円の半分以上は不要になる。外来診察の人数を1日5人から多くてせいぜい10人で、十分採算がとれるようなシステムにする必要が出てくる。ゆっくり患者と向き合い、その人に合った自己治癒力を高める方法を一緒に考えていくことができるようになる。
カテゴリー2の患者をじっくり診るのが臨床医の仕事に、同様にカテゴリー3をカテゴリー2に変える研究も進む。

« 医療学習ノート 『患者よ がんと戦うな』 | トップページ | 経済学習ノート 外国人が日本国債を買っても対外純負債は増えない »

心と体」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/573562/53994896

この記事へのトラックバック一覧です: 医療学習ノート 『9割の病気は自分で治せる』:

« 医療学習ノート 『患者よ がんと戦うな』 | トップページ | 経済学習ノート 外国人が日本国債を買っても対外純負債は増えない »